―主人公のミチタカは、乗合バスに揺られ山奥の村へと向かっている。
その村の変わった祭りを取材に行くところ・・どう変わっているのかは知らない。
ちょっと無愛想な運転手と、妙に人懐っこい教師(土屋大輔)の2人を旅の道連に。
ミチタカは幾度も夢を見る、子供の頃の。でも何かが思い出せない。
そして時折彼を襲う腹部の痛みは、太鼓の音の様に鳴り響く鼓動とともに
夢も現実も飲み込んで、その場所は確かさを失っていく。―

大輔さん演じる健一は、ミチタカが両親を亡くした後妹とともに引き取られた
家の子(従兄)。ミチタカには兄のような存在でもあり、コンプレックスでもある様。
学校の先生のシーンでは、子供と同じ目線で一緒に楽しむことのできる
ちょっと茶目っ気のある先生。
幼い頃のガキ大将ぶりも、身体中でやんちゃな感じが可愛らしく、
ミチタカのことをとっても大切に思っているのも自然に出ていて良かった。
全部が健一ではあるけれど現実の健一、思い出の中の健一、夢の中の
健一と言う感じに年齢も言葉遣いもテンションも違っていて切り替えが
難しかったのではないかと思う。

すごく痛みや不安を感じながらも吸い寄せられいく不思議なお話の中で、
アドリブで笑いの入るシーンがあったけれど、私は好きになれなかった。
全体を通して舞台を霧のように覆っている流れ、そのトーンが無理に切られるような
違和感が残った。

散らばってしまったピースを探しながらパズルを組み立てて行くよう。
ただしそれは正解のないパズルで、現実と言う最後のピースをはめ込んだ時に
完結するだけ。そんな印象の舞台だった。
ミチタカが夢と幻想に囚われて自分を見失って行くように舞台は進むけれど、
過去と幻想をさまようことで最後に確かな自分に辿り着いた、全てはミチタカが
一瞬のうちに走馬灯のごとく見た自分なのかな。

『雪月花』
=儚さ・夢・幻・情緒・叙情・闇・灯り・幽玄・静寂・郷愁・あやかし・秘めこと・・・
私にとってはひどく日本的な旋律を連想させる言葉。
人の喜怒哀楽を包み込んであいまいにやわらげる日本的なもの。
ちょっと怖さのある民話の世界に迷い込んでしまったような質感のある舞台で、
懐かしさがあり、哀しさがあり、どこかひやりとしたものが流れている。
日本的な風景がとても効果的に舞台を幻想的にきれいにまとめあげているのだけれど、
また、その日本的なものが曖昧としたつかみどころのないものを
たくさん残して行っていて、こうやって文字にしていると何だか自分が
奇妙な旅にいざなわれてしまった気がして仕方ないのだ。。